
このシリーズでは、アイスタット統計セミナー受講者の「知っているようで、意外に知らなかった」という声をもとに、統計の基礎や分析者が陥りやすい統計の落とし穴などについて解説していきます。
< 監修:アイスタット代表取締役会長 菅 民郎 >
第4回では、段階評価の集計方法・t検定で落とし穴があることを説明します。
今回の落とし穴は『3つ』です。
アンケート調査などで「満足・不満」「そう思う・そう思わない」などの度合いを5段階評価で聞いた時、集計方法は「割合」だけではなく、「平均」も求めることが出来ます。ただし、回答された選択肢番号を得点化して、量的データとして扱うことが前提です。

<用語説明>
標準偏差は、データのバラツキを示す指標である。
データが平均に比べてどれだけバラついているかを把握することができる。
標準偏差の値は最小値がゼロである。標準偏差がゼロの時、データの値は全て同じ値となる。
データの「散らばりの程度」が大きいほど標準偏差の値が大きくなる。

4段階評価、6段階評価の集計では、「平均」を求めることができない!「割合」の集計のみ。

中心値がない(中間的意見を置かない)段階評価は、得点化してはいけないため、量的データとして扱えず、平均を求めることができません。
真ん中に肯定的選択肢と否定的選択肢が対称となる7段階評価、5段階評価、3段階評価の場合は、平均を求めることができます!


5段階評価で2項目の回答データの集計結果を比較した時、「割合」と「平均値」で結論(回答の傾向)が逆転することもある!

「割合」「平均値」の解釈の仕方は見る視点(着目)が異なるからです。
「割合」 の分析 ➡ 該当者に着目(片側)
「平均値」 の分析 ➡ 総数の真ん中に着目
※ 解析目的(明らかにしたいこと)にあわせて使い分けることが大事です!
「割合」と「平均値」の結論が逆転するデータを下記に示します。


5段階評価(5件法データ)で算出した平均について、2群間の母平均の有意差検定を行う場合は、パラメトリック検定を使ってはいけない!

母集団に関する仮説を標本調査から得た情報に基づいて検証したい時、統計的検定を使って明らかにします。
平均に関する検定手法は多数ありますが、5段階評価(5件法データ)で算出した2群間の母平均の有意差についてt検定を適用することができません。
5件法データは順序尺度なのでノンパラメトリック検定を適用します。
対応のないデータの場合はウイルコクソン順位和検定(別名U検定)、対応のあるデータの場合はウイルコクソン符号順位和検定(別名サインランク検定)を適用します。


「ノンパラメトリック」対応のない:ウイルコクソンの順位和検定(U検定)
A製品について満足の度合いを5段階評価(5件法データ)で聞き、算出した平均について性別で違いがあるか(異なるか)を調べた。今回の調査では、男性の平均値は2.07、女性の平均値は1.92で男性の方が評価が高い結果であった。
この結果が母集団についてもいえるか、ウイルコクソンの順位和検定(U検定)で調べたところ、p値 0.31 >0.05より有意差は見られなかった。(男女で異なるといえない=つまり同じ)


「ノンパラメトリック」対応のある:ウイルコクソンの符号順位和検定(サインランク検定)
「試食品A」「試食品B」をそれぞれ試食してもらい、満足の度合いを5段階評価(5件法データ)で聞き、算出した平均に違いがあるか(異なるか)を調べた。今回の調査では、試食品Aの平均値は2.01、試食品Bの平均値は2.61で、試食品Bの方が評価が高い結果であった。母集団においても平均値に違いがあるかをウイルコクソンの符号順位和検定(サインランク検定)で調べた。p値0.000<0.05より有意差が見られた。(違いがあるといえる)


第4回の統計知識の落とし穴は、以上となります。
きちんと理解し、正しくデータ分析・データ解析を行われている人は問題ありませんが、落とし穴にご注意!

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