統計探偵物語 第3話

目次

CS分析について学ぶ

依頼人 

 第3話はアンケート調査がテーマである。美容院経営者から、店舗の改善点の調査を依頼される。

雪乃: 「所長いまどこにいるんですか。お客様がお待ちになっていますよ。」
所長: 「約束した時間までには事務所にもどる。早く来られたのはお客さんの方だ。こっちには責任がない。」
雪乃: 「そんなこといっていいんですか。すごい美人ですよ。」

所長の予力は急に走りだし、予力統計探偵事務所には約束の時間より5分前に着いた。

統計事務所の一角に年代物の大きな木の衝立(ついたて)がたっており、その向こうには狭い事務所を塞(ふさ)ぐようにソファとテーブルの四点応接セットが置かれている。

そのソファに座っている女性は所長を見ると、長いつけ睫毛(まつげ)を瞬かせ優雅な身のこなしで立ち上がった。丹念にメークアップされた顔はエキゾチックな美しさをたたえ、所長を見据えた。

依頼人: 「はじめまして。明星小百合です。」
所長: (名前も姿も映画スターみたいだなと思いつつ)「予力測太郎です。どなたのご紹介でしょうか?」

明星: 「予力様の奥様と親しくさせていただいており、あなた様のご活躍はお聞きしておりました。一度お目にかかって私の悩みごとを聞いていただきたいと思いまして。」
所長: 「ホー、家内のご友人ですか。それは失礼しました。」

明星: 「大学時代に知り合ったのですが、奥様とつるんでヤンチャしてましたのよ。奥様にきいておりませんか。」
所長: 「全くきいておりません。明星さんからお二人のヤンチャブリをお聞きしたいですな。まー、今日は明星さんの悩みをお聞かせください。」

依頼内容

明星: 「私、美容院を経営しています。」
明星: 「オープンしてから5年経ちますが、お客様は少しずつではありますが増え、わずかですが黒字が出せるようになりました。」
所長: 「それは何よりですな。」

明星: 「お客様が増えているとはいえ、1回だけしか利用しないお客様も結構おります。」
所長: 「固定客を増やしたいということですね」
明星: 「はいその通りです。」

所長: 「お客様が他の美容院に移られる原因は何だと思いますか。」
明星: 「料金は他の美容院に比べけっして高いと思いません。おそらく、私はじめ従業員に問題があるのだと思います。」
所長: 「従業員だけの問題ではないでしょう。店舗の内装・外装の評価、競合店の新規開店、広告の仕方など色々な要因が影響していると思いますよ。」

明星: 「お店の満足度を上げて固定客を増やすためには、色々なことを改善しなければなりませんが、一挙に全部を改善するのはコスト、時間において無理だと思います。優先的に改善すべきことが何であるかを教えていただきたいと思います。」
所長: 「了解しました。あなたの店で何が問題かは、お客様の声を聴くのが一番です。」

明星: 「正直に答えてくれるかしら。」
所長: 「顔を突き合わせて聞いたら答えてくれないでしょう。聞きたいことを質問紙にしてアンケート調査をしてください。」

明星: 「どのようにしたらよいか分からないのでお仕事として、アンケート調査を依頼したいと思います。」
所長: 「分かりました。早速ですが、進め方は次の手順で行います。」

【アンケート調査の手順】
① アンケート調査の質問項目と選択肢を決める。
② 調査票を作成し、100部印刷する。
③ 来店者がお帰りの際、アンケート調査ご協力のお願いをして、調査票と返信用の封筒を手渡す。返信先は予力統計分析研究所とし、返信封筒に切手を貼ります。
④ 回答は無記名でしてもらい、誰が回答したか分からないようにします。
⑤ 調査開始から1ヵ月後、調査を打ち切ります。
⑥ データ入力、集計、解析をします。
⑦ 報告書を作成し、何を優先的に改善すべきかをご報告させていただきます。

明星: 「全てお任せしてよいのでしょうか。」
所長: 「もちろんです。実務担当者を紹介します。」
雪乃: 「統分雪乃です。」
明星: 「あらまー、可愛いお嬢さんだこと。雪乃さん、よろしくね。」
所長: 「子どもっぽいですけど、仕事はできますのでご安心ください。」

雪乃は所長のアドバイスを受け、次の質問紙を作成した。

アンケート調査票


1ヵ月後、予力統計分析研究所に送られてきた調査票は20票だった。 雪乃がExcelに入力したデータは次の通りである。

回収調査票


ただし、問1は〇の付いた要素を1点、〇の付かない要素を0点として入力した。
問2の項目名は総合評価という名称にして、データは次に示す得点で入力した。

解析手法「CS分析」で集計・分析する

所長: 「雪乃くん、集計と分析をしてください。」
雪乃: 「えっ、私がするんですか。」
所長: 「あたりまえだ。入社して間もないころ、CS分析の仕方を教えたと思うが。」
雪乃: 「はい、そうでした。その時のノートを見て挑戦します。」
所長: 「頼むぞ。」

雪乃はノートを取り出し”4月××日顧客満足度調査の分析方法について学ぶ(CS分析とはCustomer Satisfactionの略)”と書かれたページを開いて復習した。

雪乃: 「集計と分析をしたので、所長チェックしてください。」
所長: 「では結果を聞こう。」
雪乃: 「問2のお店全体の総合評価について集計し、グラフを描きました。」(図表3-4、3-5参照)

店全体の総合評価・各要素の満足率を調べる

店全体の総合評価

雪乃:「満足と回答した人は10%、やや満足は30%で二つ合わせた2topの満足率は40%です。
不満15%とやや不満30%を合わせた不満率は45%で、不満率が満足率を上回りました。
1点から5点の得点データの平均値を計算すると2.9点で、真ん中にあたる「どちらともいえない」の3点を下回りました。総合評価の満足率や平均値から判断すると、明星さんの美容院は問題があると思います。

所長: 「雪乃君、ここまでは順調だ。」
雪乃: 「はい、うれしいです。次に、問1の各要素について、1点を回答した人の全体20人に占める割合を満足率として計算しました。」(図表3-6参照)

所長:「OK」
雪乃:「満足率を降順で並べ替え横棒グラフを描きました。」(図表3-7参照)

各要素1点をつけた人数と満足率

所長: 「OK、それで?」
雪乃: 「『あいさつ』の満足率が最も高く、次に『設備の充実度』、『店舗の清潔感』が続きます。『技術の高さ』『室内のゆとり』は30%を切りました。私は、優先的に改善すべき要素は評価の最も低い『室内のゆとり』だと考えました。」

所長: 「バカモン。」
雪乃: 「えっ、間違いですか。誰がみても、室内のゆとりの満足率は5%と低いので改善要素だと思いますが。」

各要素の満足率

所長: 「CS分析を勉強したとき、CS分析で重要なことをノートにメモしていたと思うが。」
雪乃: 「(パラパラとノートをめくり)ありました。CS分析は総合評価を高めるのに重要な要素で評価の低い要素を改善すると書いていました。」

所長: 「では、どうする?」
雪乃: 「問2の総合評価と問1の各要素との関係を調べ、どの要素が総合評価を高めるのに重要かを調べます。」
所長: 「そうだ。例えば総合評価と『あいさつと』の関係を分析してごらん。」

雪乃: 「ウーム、関係ですか。(芸能人同士の関係はわかるんだけど。こちらの方の関係はどうするの?)」
所長: 「うなっているだけではだめだ、データをいじくり廻すんだ。」

クロス集計表から、どの要素が総合評価を高めるのに重要かを調べる

雪乃: 「『あいさつ』を良いと”思っている人”と”思っていない人”で総合評価に違いがあるかを調べてみました。」

あいさつ得点別人数の総合評価


所長: 「それで、両者の違いは?」
雪乃: 「あいさつを”良いと思っている人”について見ると、総合評価が満足(4点と5点)の割合は60%、不満(1点と2点)の割合は30%で、総合評価は不満者より満足者が多いです。」

所長: 「ふむふむ」
雪乃: 「あいさつを”良いと思っていない人”について見ると、総合評価が満足(4点と5点)の割合は20%、不満(1点と2点)の割合は60%で、総合評価は不満者より満足者が少ないです。」

所長: 「だから?」
雪乃: 「”あいさつ”を良いと思っていただければ総合評価は高くなり、”あいさつ”を良くないと思われれば総合評価は低くなるということです。だから、あいさつは総合評価に影響を及ぼしている要素といえると思います。」

所長: 「いいねー。他の要素についても調べてみてください。」

雪乃は全ての要素について計算し、結果を解釈してみた。

雪乃: 「総合評価の不満割合と満足割合を比較すると、どの要素も1点(良い)の回答者は満足が不満を上回り、0点(良くない)の回答者は満足が不満を下回っています。
どの要素も総合評価を高めるのに重要な要素といえます。」(図表3-9参照)

各要素の得点別人数の総合評価

重要度ランキングをつける統計手法

所長: 「全て重要なのはわかった。雪乃君、重要度のランキングを付けてよ。」
雪乃: 「重要度のランキング?」

所長: 「雪乃くん。両者の関係の強弱を数値で表す統計手法は何かな。」
雪乃: 「えーと」
所長: 「忘れたの?」
雪乃: 「前に私の親友美咲さんに相談を受けたとき用いた単相関係数でしょうか。」
所長: 「そうだが、単相関係数を使うのに何かためらいがあるのか。」

雪乃: 「単相関係数は数量データと数量データの関係を調べるものと思っていました。
あいさつに対する評価は”良い”、”良くない”の2分類で数量データでないと思いました。」

所長: (こいつ結構着眼点がいいな)
「そうだね、分類データはカテゴリーデータともいうが、カテゴリーデータと数量データの相関は相関比を適用する。だけど2分類に限っては1点、0点と数量データとして、単相関係数を算出してもかまわないんだ。」

所長: 「今回のように多数の評価項目でどの要素が重要かを調べる場合、相関比と単相関係数の値は異なるが、両者の大小順位は同じになることが分かっているので、相関比、単相関係数どちらを使ってもよいということだよ。」

雪乃: 「分かりました。前(第2話)に教えてもらった方法で単相関係数を算出します。」

所長: 「手計算で単相関係数を算出するのは大変だよ。アイスタットのフリーソフトで簡単に計算できるよ。」
雪乃: 「前にアイスタットのホームページから【統計解析ソフトウェア】と【多変量解析ソフトウェア】をダウンロードしていたけど、一度も使ったことがないです。」
所長: 「それはもったいないな。次の手順で操作していって。」

アイスタットのフリーソフトを使って単相関係数を求める

【統計解析ソフトの使用方法】

▶ 美容院のデータをExcelのシートに入力する。

▶「統計解析ソフトウェア.xlsm」 または「多変量解析ソフトウェア.xlsm」を開く。

▶ Excelのメニューバー「アドイン」に、下記のメニューが表示される。

▶ 相関分析を選択し、実行ボタンを押す。

▶ 下記の通り指定する
▶ 分析実行を押すと基本統計量と相関係数が出力される。

単相関係数で、総合評価を高めるのに重要な要素を調べる

所長: 「じゃあ、次に出力された単相関係数(図3-12・相関行列表の総合評価)を降順で並べ替え、横棒グラフを描いてみて。」

「相関分析」出力結果

単相関係数の棒グラフ

雪乃: 「総合評価を上げるのに重要なのは、技術の高さ、店舗の入りやすさ、設備の充実度で、重要でないのは店舗の清潔感、室内の落ち着き、室内の明るさということですね。」

所長: 「その通り。」

重要な要素で評価の低い要素(改善要素)を調べる

雪乃: 「ここまでは分かりました。だけど、総合評価を高めるのに重要な要素で評価の低い要素を改善すると教えられましたが、どのようにすれば改善要素を見つけることができるかわかりません。」

所長: 「あまり難しく考えないこと、私の言う通りに散布図を描いてください。この散布図を見れば改善要素が分かるんだ。」
雪乃: 「どんな散布図を描けばよいですか。」
所長: 「まずは散布図を描くためのデータを一覧表にしよう。次のような表を作成して。」

◆1列目:要素名

◆2列目:各要素の満足率
(図表3-12・基本統計量表の平均)

◆3列目:各要素と総合評価との単相関係数
(図表3-12・相関行列表の総合評価) ※パーセント表示に

雪乃: 「作成しました。」(図3-14参照)

各要素別の満足率と相関係数

所長: 「縦軸を満足率、横軸を単相関係数にとり、散布図を描く。」
雪乃: 「できました。」(図表3-15参照)
所長: 「今、雪乃君が作成した数表で満足率と単相関係数の平均値を算出してください。」
雪乃: 「満足率の平均値は32%、単相関係数の平均値は0.42です。」

散布図

所長:「縦軸において、満足率の平均値32%を通る横線を引いてみて。
横軸において、単相関係数の平均値0.42を通る縦線を引く。
横線より右、縦線より下に位置する領域に着目するんだ。」
(図表3-16参照)

雪乃: 「右下の領域には”技術の高さ”があります。」
所長: 「“技術の高さ”はどのような要素だと思う?」


平均線を加えた散布図

雪乃: 「えーと、”技術の高さ”は縦平均線より右側に位置しているので単相関係数は高く、総合評価を高めるのに重要な要素です。そして、横平均線より下側に位置しているので”技術の高さ”の満足率は低いです。」

所長: 「ということは?」
雪乃: 「”技術の高さ”は、総合評価を高めるのに重要な要素であるのに評価が低いので改善しなければいけない要素だと思います。

所長: 「雪乃君が改善すべきだといった”室内のゆとり”はどのような要素かな。」
雪乃: 「”室内のゆとり”は縦平均線より左側に位置しているので単相関係数は高くなく、総合評価を高めるのにそれほど重要な要素といえません。そして、横平均線より下側に位置しているので”技術の高さ”の満足率は低いです。
ということは、”室内のゆとり”は、評価は低いが重要要素でないので改善する必要がないといえます。」

所長: 「改善する必要がないというのは、いいすぎで、評価の低い要素は改善すべきであるが、優先順位として、”室内のゆとり”より”技術の高さ”を先に改善すべきということだ。」

雪乃: 「全ての要素に改善する順番を付けることはできないでしょうか。」
所長: 「いい質問だね。改善度指数という値がある。アイスタットのフリーソフトで改善度指数の計算ができるので算出してみよう。チョチョイのチョイ。ほら結果だ。」(図表3-17参照)

各要素別の改善度指数

※改善度指数はアイスタットのフリーソフト「多変量解析」で求めることができます。
出力結果を降順に並べ替えています。

所長: 「改善度指数がプラスは改善、マイナスは改善不要だ。
値が10以上は即改善、5以上は要改善、5未満は改善検討だ。」

雪乃: 「明星さんの美容院での改善要素は5つで
”技術の高さ”は即改善”室内のゆとり”は要改善、”店舗の入りやすさ”、”設備の充実度”、”言葉遣い”は改善検討
ということですね。」

所長: 「そうだ。」
雪乃: 「所長、改善度指数の求め方を教えてください。」
所長: ソフトウエアを使っての求め方はマスターすべきだが、どのような計算式で算出しているかまでは理解しなくていいよ。
雪乃: 「難しくてわたしには理解できないということですか。」
所長: 「うーむ、難しいが挑戦してみる?」
雪乃: 「はい、ぜひ。」

改善度指数の求め方

所長: 「6つの工程を経て改善度指数は求められる。」
① 偏差値の計算
② 偏差値の散布図作成
③ 散布図中心から散布点までの距離計算
④ 角度計算
⑤ 修正指数の計算
⑥ 改善度指数の計算

雪乃: (しまった。難しそう、今から聞くの、断ろうかしら)
所長: 「もう引き返せないぞ、覚悟して聞きなさい。」

所長: 「満足率と単相関係数の偏差値を計算して。偏差値は前(第1話)で使用したから計算できるね。」
雪乃: 「はいできます。・・・ 計算しました。」(図表3-18参照)

各要素別の偏差値

注1.満足率偏差値=10×(満足率-平均)÷標準偏差+50
 室内のゆとりは、10×(5%-32.2%)÷13.0%+50=29

注2.単相関偏差値=10×(単相関-平均)÷標準偏差+50
 室内のゆとりは、10×(0.38-0.42)÷0.18+50=48

雪乃: 「総合評価を上げるのに重要なのは、技術の高さ、店舗の入りやすさ、設備の充実度で、重要でないのは店舗の清潔感、室内の落ち着き、室内の明るさということですね。」

所長: 「その通り。」
雪乃: 「ここまでは分かりました。だけど、総合評価を高めるのに重要な要素で評価の低い要素を改善すると教えられましたが、どのようにすれば改善要素を見つけることができるかわかりません。」

所長: 「そしたら偏差値の散布図を描いて。」
雪乃: 「描きました。どんな場合でも偏差値の平均は50となるので、偏差値50のところで横線、縦線を引きました。」(図表3-19参照)

所長: 「偏差値の散布図バッチリOKだ。」
雪乃: 「先ほど作成した散布図と散布点の位置関係は同じですが、偏差値の散布図を作ったということは、何か意味があるんですね。」

所長: 「そうだよ。改善度指数は偏差値の散布図から計算するんだ。」
雪乃: 「やっぱしね。」

偏差値の散布図

所長: 「”技術の高さ”について改善度指数の求め方を説明しよう。
まずは偏差値の散布図において、中心点(50、50)から技術の高さの散布点(65、44)までの直線を引いて、そして2点間の距離を求めて。」(図表3-20参照)

雪乃: 「ものさしで長さを測るのですか。」

所長: 「それでもよいが、中学3年か高校1年のとき距離を求める公式【ピタゴラスの定理(別名三平方の定理)】を習ったと思う。これを使ってみよう。」

雪乃: 「なんとなく覚えています。ネットで検索してみます。 」


<検索結果>

直角三角形の斜辺の長さを c、他の2辺の長さを a, b とすると、

雪乃: 「これを使って計算すると、15.8となりました。」

雪乃: 「右下の点の座標はどんな場合も(80、20)と決まっているのですか。」

所長: 「そうだ。偏差値は大概の場合20点~80点の間におさまるので、右下の座標は(80,20)としているんだ。」
雪乃: 「了解しました。」

所長: 「基準線と先ほど引いた”技術の高さ”までの直線とのなす角度を求めてください。」
雪乃: 「角度ね。角度を測る分度器を持ちいればいいんですよね。」
所長: 「その通り。Excelの関数でも計算できるから、私はそっちの方で算出してみよう。角度は24.4度だ。」
雪乃: 「Excelでそんことできるんですか。教えてください。」

距離と角度②

所長: 「高校生のとき数学でsin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)を勉強したと思うが覚えているかな。」
雪乃: 「三角関数ですよね。ほとんど覚えていません。」
所長: 「Excelで角度を求める場合、三角関数が計算できるExcelの関数を使うんだ。三角関数を知らないと理解できないよ。」
雪乃: 「私、高校時代、数学で三角関数が一番嫌いでした。三角関数をマスターしたいので教えてください。」

所長: 「了解。ここで、右下の座標点(80,20)について、もう少し考えてみよう。
ある要素がこの座標点(80,20)だったとしよう。この要素は満足率が最も低く、単相関係数が最も高い。
すなわち総合評価を高めるのに最も重要な要素であるのに満足率が最も低いので、他の座標点の要素に比べ、改善を最も早くすべき要素といえる。」

雪乃: 「ということは、座標点(80,20)に近い位置にある要素ほど改善し、遠い位置にある要素ほどは改善しなくてよいということですか?」

所長: 「すごいじゃないか。その通り。さらにいうならば、改善する要素は基準線に近く中心点からの距離が大きいものだ。」

雪乃: 「まとめると、角度が小さく距離が大きいほど改善度指数は大きくなるということですね。」

所長: 「そうだ。【角度が小さいほど改善度指数が大きくなる】を【角度が大きいほど改善度指数は大きくなる】としたいために、修正角度指数というものを導入する。」

距離と角度③

雪乃: 「修正角度指数?」

所長: 「基準線からの角度を図に示すように 90度→0 、45度→0.5、0度→1、と変換する。

この角度を修正角度指数と呼ぶことにする。数式では、修正角度指数=(90度-角度)÷90度で求められるんだ。」

角度と修正角度指数

雪乃: 「”技術の高さ”の角度は24.4度だから、修正角度指数は0.729です。」 (90度-24.4度)÷90度=0.729
所長: 「改善度指数は次の式で求められるぞ。」 改善度指数=距離×改善度指数
雪乃: 「距離は15.8なので、15.8×0.729=11.5です。 ワー、所長が算出した結果と同じになりました。」
所長: 「おめでとう。」

調査報告

後日、雪乃はパワーポイントで報告書を作成し、明星さんに説明した。

CS調査報告
お店に対する総合的評価は、満足と回答した人が40%で不満の45%を下回っている。

お店の総合評価を上げるのに重要な要素は『技術の高さ』である。

明星さんの美容院は重要要素の技術の高さの評価が25%と低い。
改善度指数を計算すると11.5で即改善が必要と思われる。➡(①)

次に改善度指数が高いのは室内のゆとりである。
店舗改善には費用がかかるので配置換えなどして、室内のゆったり感をかもし出すこと。➡(②)

①、②を改善すれば獲得した顧客の継続利用が見込める。

雪乃は明星さんにすっかり気に入られ、サービスで雪乃に似合うヘアスタイルをアドバイスまでしてもらった上、実際にそのスタイリングにしてもらった。 月曜日出社すると所長は目ん玉を大きくし、変身した雪乃にどこのお嬢様だと絶句した。

第3話 終わり

制作:菅 民郎 
理学博士 
株式会社アイスタット代表
ビジネス・ブレークスルー大学院名誉教授

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